東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)36号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
成立に争いのない甲第三号証及び第八号証によつて認められる本願明細書(昭和五五年六月一一日付手続補正書による補正後のもの、以下同じ。)の第三表には、本願発明の実施例一及び二で得られたリボンデイングフオームと従来のリボンデイングフオームにつき密度、圧縮永久歪、くり返えし圧縮永久歪、硬さ、引張り強さ、引裂き強さ、反発弾性、伸びを比較した比較データが記載されている。しかしながら、本願明細書の記載によれば、右実施例一及び二の場合の溶剤使用量は、前者ではプレポリマー一七五・五gに対しメチレンクロライド九四・五g、後者ではプレポリマー六・六三kgに対しメチレンクロライド三・五七kgであるから、いずれもプレポリマー一〇〇重量部に対して五三・八重量部となることが計算上明らかである。したがつて、右第三表は、本願発明の溶剤の使用量の上限値及び下限値を用いた場合のリボンデイングフオームと従来のものとの比較データを明らかにするものでないから、これのみによつて、本願発明の方法のプレポリマー一〇〇重量部に対し五〇~一五〇重量部の溶剤に溶解する総ての場合にその製品であるクツシヨン材が従来のものに比較して優れていると認めることはできない。また、右比較の対象とされた従来のリボンデイングフオームは、本願明細書の記載によれば、遊離のイソシアネートを約三〇%含む発泡用プレポリマーを用いたものと認められ、本願発明の遊離のイソシアネートを一ないし一〇%含むプレポリマーを用いる方法とは異なるものであるから、本願発明における溶剤の使用量の限定による臨界的意義を明らかにするものとも認められない。
次に、成立に争いのない甲第九号証により、原告ワコーケミカル株式会社嘱託田原健二作成の実験成績書を検討する。この実験成績書には、プレポリマーとして本願明細書記載のAのプレポリマーで遊離のイソシアネート三・一%を含むものを用い、このプレポリマー一〇〇重量部に対して溶剤を添加しない場合(同実験成績書四頁の表の1、2)、三〇重量部(同3)、五〇重量部(同4)、一〇〇重量部(同5)、一五〇重量部(同6)、一八〇重量部(同7)添加した場合について、実験を行い、サンプルを各一〇個を採り、密度、硬さ二五%、引張り強度(kg/cm2)、伸び(%)、圧縮永久歪(%)について各平均値と標準偏差が表として示されている。この表によれば、溶剤を使用しないか又は本願発明の溶剤使用量の下限値未満の量の溶剤を使用した場合(表の1ないし3)とそれ以外の場合との間には、密度、硬さにおいては特に差異はないが、引張り強度、伸び、圧縮永久歪においてその数値、標準偏差とも若干の有意差が認められるものの、本願発明の溶剤使用量の上限値を用いた場合(表の6)とこれを超えて溶剤を使用した場合(表の7)との間には、顕著に異なつた点を見出すことはできない。したがつて、この実験成績書によつては、本願発明における溶剤の使用量の限定に臨界的意義があると認めることはできない。
また、右実験は、本願発明のプレポリマーのうち、遊離のイソシアネートを三・一%含むものについての実験であり、遊離のイソシアネートを一ないし一〇%の範囲で含むプレポリマーを用いる他の場合について溶剤の使用量の限定に臨界的意義があることを示すものとは認められない。けだし、本願明細書第一表には、本願発明のプレポリマーの粘度は遊離のイソシアネートの含有割合によつて種々のものがあることが示されており、したがつて、この「プレポリマー一〇〇重量部に粘度を下げてスプレーすることができるようにし、かつプレポリマーをセル中へ均一に浸透させる為にハロゲン化炭化水素等の溶剤五〇~一五〇重量部を加え」(甲第三号証二頁、補正の内容(2))たとしても、その粘度は種々のものとなり、セル中への浸透度もそれぞれのプレポリマーごとに異なるものとなつて、このことがリボンデイングフオームの物性に影響を与えることは明らかといわなければならないから、前記実験結果が他の場合に同等に当てはまるとは到底推認することができないからである。その他本件全証拠によつても、原告ら主張事実を認めることはできない。
そうすると、本願発明における溶剤の使用量の限定に臨界的意義はないとした審決の認定は正当であつて、原告主張の審決取消事由は理由がないといわなければならない。
三 よつて、本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。
〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。
軟質ポリウレタンのスクラツプを切断または粉砕してチツプ状にし、これを結合剤により結合して、クツシヨン材を製造するに当り、前記結合剤としてポリエーテルグリコールとトリレンジイソシアネートから生成され、かつ遊離のイソシアネートを一~一〇%含むプレポリマーを、プレポリマー一〇〇重量部に対して五〇~一五〇重量部の溶剤に溶解し、これを使用することを特徴とする軟質ポリウレタンフオームのスクラツプを利用したクツシヨン材の製造法。